2026/06/06 19:00


【LIVING LIFE】(生前の暮らし)

第三回は、埼玉県にお住いの小野寺さんご夫妻と、愛娘のあんずちゃん。

【名前】あんず ♀
【犬種】フレンチブルドッグ
【毛色】クリーム
【生年月日】2012年2月10日
【没年月日】2025年5月5日
【飼い主】小野寺 Satomiさん / Natsuさん

「私とあんずの生活は終わってないんです」

一時間半に渡るインタビューの終盤、
Natsuさんは我々にそう語りかけた。

そう、これは喪失の悲しみをテーマにしたストーリーではない。

今もなお続く、小さな愛の物語だ。


今から約14年前、SatomiさんとNatsuさんは、マンションの購入を機に、以前から憧れていたフレンチブルドッグとの暮らしを手に入れるため、大きな一歩踏み出した。近隣のブリーダーを訪ねると、そこには生を受けて間もない3匹の子犬がいた。

その中にいたクリームの女の子を見た瞬間、二人は直感的に「この子を迎え入れたい」と感じた。人が恋に落ちるときは、往々にしてそういうものだ。

生後4か月ほどで家族の一員となったその子に、二人は「あんず」という名を贈った。


あんずちゃんの性格は一言で表すと
「ツンデレ」

自分から積極的に甘えてくることはないが、二人がソファでくつろいでいると、寄ってきて、お尻をくっつけて座る。

そっと、気づかれないように。

その小さな接点から流れ込んでくる静かで温かな体温は、彼女なりの愛情表現だった。

共働きで忙しく働く二人にとって唯一の後悔は、お留守番の時間が長かったこと。それでもあんずちゃんは文句のひとつも言うことなく、朝は二人の後姿を見送り、夜はたくさんの愛情をもって日々の仕事で疲れた心を癒してくれた。

休みの日には三人で様々な場所に出かけた。当時は犬と泊まれる宿は限られるため、大自然の中のキャンプ場が憩いの場になった。誰に気兼ねすることもなくあんずちゃんと家族の時間を満喫できるキャンプは、日常の喧騒から離れる大切な時間。

Satomiさんが玄関にキャンプ道具を並べ始めると、ウキウキした様子ではしゃぐ姿。道中、車窓の移り行く景色を真剣なまなざしで眺める姿。

そんな生き生きとした彼女の表情のひとつひとつが、今も二人の心の中に大切に刻み込まれている。


しかし、あんずちゃんとのLIVING LIFEは決して楽しい時間ばかりではなかった。繰り返す持病の膀胱炎に加えて、肝臓からの出血、子宮蓄膿症のための2度に渡る大きな手術。そのたびに病気と闘う我が娘を想い、不安な夜を過ごしてきた。

彼女の健康を願うからこそ、食事は徹底してドッグフードのみ。人間の食べ物を与えることはなかった。「でも、もう少し甘やかしても良かったのではないか...」と語るNatsuさん。こういった飼い主の葛藤に明確な答えが出ることはない。

でもあんずちゃんはそんな二人の想いを受け止めるように、決して自分から人間の食べ物を要求することはなかったという。

11歳を迎えた頃、更なる試練があんずちゃんを待ち受けていた。睡眠中、頻繁に失禁するようになり、起きてくると後ろ脚に力が入らない。

当初はヘルニアを疑ったが、
精密検査の結果は、脳腫瘍。

そして、追い打ちをかけるように医師から告げられた言葉は、余命1~2か月という非情なものだった。

祈るような思いで臨んだ放射線治療。この治療が効果を発揮し、あんずちゃんは自らの運命に抗うように、力強く回復していった。脳腫瘍の発覚から1年。小野寺家は徐々に穏やかな日常を取り戻していった。

しかし、時間の経過とともに今度は加齢による体力の低下が目立ち始める。24時間体制での介護が必要になると、仕事を調整し、あんずちゃんファーストの生活を送った。

それは、今振り返ると二人にとって「あんずちゃんからの贈り物」のようなかけがえのない時間となった。

絶望の淵に立たされた余命宣告から、
2年が経過しようとしていた
2025年5月5日――。

あんずちゃんの肉体はたくさんの愛情と思い出を残し、二人のそばから旅立っていった。


【AFTER LIFE】(その後の暮らし)

人生とは時に残酷なものだ。

AFTER LIFEが始まった二人に、神様は「悲しみに暮れる時間」を与えてはくれなかった。

あんずちゃんの旅立ちからわずか二日後、
Satomiさんのお母様が他界されたのだ。

同時に襲ってきた大きな悲しみ。

それでも、Natsuさんはこう振り返る。

「葬儀って遺族の悲しみを紛らわすためにわざと忙しくさせるって言うじゃないですか。
だから、お義母さん、このタイミングを狙ったのかな...と」

家族を二人同時に失う。その悲しみは私たちには計り知れないが、あんずちゃんとの別れに没入しないようにするために、あえてお義母さんがこのタイミングで旅立ったのかもしれないという言葉には、強がりとは思えない静かな説得力があった。

それでも必ず“非日常”から“日常”に引き戻される瞬間はやってくる。

あんずちゃんを24時間体制で介護できるよう、夜勤の仕事に転職していたNatsuさんにとって、Satomiさんと生活がズレる昼間の時間がまさにそれだった。あんずちゃんの気配は感じるのに、姿が見えない静かな我が家。ひとりで過ごすその時間は、ただただひたすら悲しみに向き合ったという。

そして休日になると、二人であんずちゃんの思い出をなぞるように一緒に出かけた場所を訪ね、たくさん彼女の話をした。

二人にとって、あんずちゃんの存在は、まさに「娘」そのもの。親が子を失う悲しみは、例え対象が犬であっても、人間であっても変わりはない。


そんな大きな喪失から二人を救ってくれたのは、変わらずに「続ける」ことだった。

朝は「おはよう」夜は「おやすみ」と声をかける。今日の出来事、楽しかったこと、うれしかったこと、悲しかったこと。何でもあんずちゃんに話しかけるスタイルは、生前と何ら変わりはない。

食事は朝晩、メモリアルコーナーに供え続けている。

「今はもう人間と同じものを食べられるから」

健康のために節制していたLIVING LIFEとは違い、二人と同じ「人間の食べ物」があんずちゃんの前に並ぶ。パパやママと同じ料理を前に満足そうな笑顔を浮かべてる彼女の姿が目に浮かぶ。

筆者がSatomiさん・Natsuさんと知り合った時、お二人は「キャンプが趣味のアクティブなご夫婦」というイメージだった。しかし、あんずちゃんと出会うまではどちらかというとインドア派で、内向的な性格だったという。「あんずがいたからいろいろな場所に出かけるようになったんです」と語るSatomiさん。人と会話をするのが得意ではなかったというNatsuさんも、フレンチブルドッグを飼っている人には自分から声をかけられるようになった。

生活スタイルから性格まで、あんずちゃんが二人に与えた影響は多大だった。


昨年、IN LOVING MEMORYの告知を見た時、Natsuさんはすぐに「自分たちも参加したい」と手をあげてくれた。

「あんずは他のわんちゃんとうまく関われない子だったから、お空で寂しくしてないか心配だったんです。でも、当日会場を見て、あんなにお友達がいるなら大丈夫って安心しました」

イベント会場となったTORUS CAFEには、お空に旅立ったたくさんの仲間たちの写真が集まった。二人とも地上に残されたオーナーさんたちと我が子の話で盛り上がり、心穏やかな時間を過ごした。

あの子の話をするのは、あの子を想うこと。
いつだってイマジネーション(想像力)の世界で会える。

あの日、会場にいたすべての人がそんな温かな思いに包まれていた。


最後に、小野寺さんご夫妻にもこの質問を。

What's your memento?

AFTER LIFEに、「愛の灯を燈し続けてくれるもの」は何ですか?

「あんずと過ごした13年の思い出全部ですね」

ありふれた日常、
お出かけや特別なイベント。

あんずちゃんと一緒に過ごした日々のエピソードは数え切れないほどある。

楽しかったこと、
苦しかったこと、
うれしかったこと。

LIVING LIFEで共に過ごした時間のすべてが、今日を生きる燃料になっている。

この話は何度話したっていいんだ。
何度話したって笑顔になれるんだから。


新緑の間を吹き抜ける風が心地よいキャンプ場。

いつもと同じようにあんずちゃんの思い出話に花が咲き、二人は自然と笑顔になる。

「もうこの話、何回したっけな...」

ふと視線を落とすと、
濃紺の服の裾に見慣れた一筋の白い毛が。

「ちゃんと付いてきたんだね」と、Satomiさんは優しく微笑んだ。

ツンデレなあんずちゃんは今日も大好きなパパとママを追いかけていく。

そっと、気づかれないように、
気づかれないように。



【Epilogue】(編集後記)

最近、改めて思うのです。

mementoが扱うテーマは
「死」ではなく、「愛」だと。

肉体があるLIVING LIFE、
肉体のないAFTER LIFE。

そのふたつの時間には、
確かに受け入れ難い大きな違いがある。

でも、その境界に線を引いて、
歩みを止めないこと。

続けること。

それこそが、愛なのではないか、と。

冒頭にも書いたとおり、お二人から語られる言葉のひとつひとつに愛が宿っていて、それがお二人のAFTER LIFEを燈す確かな光になっているようでした。

「私とあんずの生活は終わってないし、これからも私が死ぬまで続くと思うんです。だからそこで終わりじゃないんだよって...」

Natsuさんがそう語った言葉。

それこそが、mementoというブランドが伝えたいことを、よく表現した言葉でした。

Satomiさん、Natsuさん、
そしてあんずちゃん。

彼らの幸せな“LIFE”は続いていきます。
これからも、ずっと。