2026/02/13 19:00
【Prologue】(はじめに)
ペットを愛する私たちにとって、
決して避けて通ることができないもの。
それは、「肉体との別れ」です。
いずれその時が来るとわかっていても、わかっているからこそ、私たちは無意識にそこから目を背けてしまいます。
愛するあの子を見送ったあとに広がる暮らし――“AFTER LIFE”は、私たちにとって道標のない、暗く冷たい洞穴のように未知の領域だからです。
しかし、その暗闇の中に、
小さな愛の灯を燈す人たちがいます。
その光は、太陽のようにすべてを照らすまばゆいものではないかもしれません。けれど、暗闇の前で足がすくむ私たちを、そっと勇気づけてくれる確かな光です。
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私自身、愛犬・くるみを見送ったあと、その深い暗闇の中に身を置きました。
暗闇を消し去ることはできなくても、そこに小さな灯を燈すことはできるのではないか。
私にとってのそれは、この『memento』というブランドを通じて、くるみとつながり続けること。そして、私とくるみの絆を通して、「AFTER LIFEを共に生きる」という選択肢を誰かに提示することでした。
この連載では、私と同じように “AFTER LIFE” を歩む人々を訪ね、彼らがそれぞれの暗闇の中で見出した「愛の灯」について話を伺っていきます。
What's your memento?
“AFTER LIFE”に、小さな愛の灯(ひ)を燈す人たち
ここで言う “memento” とは、単なる形見や遺品のことだけではありません。あの子が見えない世界で、それでも愛を継続させてくれる「具体的な行動」や「心の拠り所」すべてを表しています。
暗く冷たい道の途中で、彼らは何を支えに、どうあの子を想い続けているのか。
What's your memento?
AFTER LIFEに、「愛の灯を燈し続けてくれるもの」は何ですか?
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【LIVING LIFE】(生前の暮らし)
第一回は、昨年12月にmementoと共にトーラスとくるみの追悼イベント・IN LOVING MEMORYを開催した、トーラスファミリー。

【名前】トーラス ♂ 【犬種】フレンチブルドッグ 【毛色】レッドフォーン 【生年月日】2012年6月9日 【没年月日】2025年6月29日 【飼い主】遠藤さん(Hideさん・Ninaさん) 【Instagram】@trs0609
広々とした素敵なリビングで、いつものように笑顔で迎えてくれた遠藤さんご夫妻。1階がドッグカフェとなっているご自宅の2階は、トーラスとの暮らしを考えた犬に優しい設計となっており、こだわりのインテリアで溢れている。 **************************************** アメリカンピットブルのような力強さを持つ、レッドフォーンのフレンチブルドッグ。アメリカ好きのHideさんは、当時まだ日本では珍しかったその毛色にこだわり、ようやく出会えた一匹の男の子を家族として迎えた。

お迎えする際、Hideさんの心に深く刻まれていた一つの言葉。それは、当時観た映画『スライブ』のテーマであった「トーラス構造」という概念だった。 「トーラス」とは、ドーナツ型のエネルギーの循環を指し、銀河系からリンゴの断面、人体の構造に至るまで、万物が最もバランスの取れた状態で存在するための「黄金比のエネルギー構造」を意味する。 「これから自分が商売をやるのか、犬を飼うのかは分からないけれど、何かの折にこの名前を付けたい」 そんな直感に導かれるように名付けられた「トーラス」――。その名の通り、彼は単なる愛犬という存在を超え、遠藤さんご夫妻の人生に巨大なエネルギーの渦を巻き起こし、多くの人々を惹きつける「循環の中心」となっていく。 一方、そのパワフルな名前や存在感とは対照的に、家の中でのトーラスは、どこまでも「穏やかで甘えん坊」な存在だった。 自分のルーティンを大切にするこだわり屋な一面はパパ譲り。けれど、ひとたび腰を下ろせば、いつも家族の誰かにぴたりと体を寄せてくる。ソファでくつろぐときも、どこかへ出かけた先でも、気付けばそこにはトーラスの温もりがあった。そんな何気ないひとときこそ、お二人にとって何物にも代えがたい、心穏やかな癒しの時間だった。 **************************************** LIVING LIFE(生前の暮らし)を振り返り、「健康や幸せのために、当時こだわっていたことはありますか?」と問いかけると、意外な答えが返ってきた。 「うーん、特にないんだよね。丈夫な子だったし」 もちろん、日々の変化に気を配るなど、最低限のケアは欠かさなかった。大きな目の手術を乗り越えたこともある。けれど、何かを過剰に制限したり、特別なルールを強いたりすることなく、ただ当たり前に、自然体でトーラスとの時間を積み重ねてきた。 その「足るを知る」ような姿勢は、次の問いへの答えにも現れていた。 「トーラスとの日々を振り返り、今も胸に残っている『後悔』はありますか?」 「……ないよね」 多くの家族が「もっとこうしてあげればよかった」という自責の念に駆られ、AFTER LIFEの暗闇を自ら深めてしまう中で、お二人の放つ「ない」という言葉は、驚くほど素直に胸に響く。13年、その命を共に燃やし尽くし、一分一秒を全力で愛し抜いた。そんな圧倒的な満足感が、後悔という名の隙間を埋め尽くしているようだった。 **************************************** そんなトーラスも歳を重ね、2025年の年始に一つの転機が訪れる。 発作が連続して起こり、次第に歩行にも支障をきたすようになった。 これまで大きな病気もなく健康だった彼に訪れた、抗えない「老い」と「別れ」の予感。 介護が必要となり、死を意識するようになった半年間。それはお二人にとって、トーラスの旅立ちに向けた「心の準備」をするための、濃密で、かけがえのない時間となった。 そして、2025年6月29日――。 トーラスは13年という濃密な時間を駆け抜け、 二人の“AFTER LIFE”が始まった。 **************************************** 【AFTER LIFE】(その後の暮らし) 愛する存在を失ったとき、最初に溢れ出す感情は悲しみや喪失感だと思われがちだ。しかし、お二人の胸を真っ先に満たしたのは、意外にも「がんばった」「やりきった」という、静かで温かな安心感だった。 もちろん、寂しさはある。今でもふとした瞬間に会いたくなる。けれど、その悲しみの手前側には、出し切れる限りの愛を注ぎ込んだという揺るぎない確信があり、それがまるで一本の太い杖のように二人の旅路を支えている。 AFTER LIFEが始まってから、日々の暮らしの中で「つながり」を感じさせてくれるのは、13年という歳月をかけて撮りためてきた、膨大な数の写真や動画たちだ。 「今でも写真や動画を一番見ているかな」と語るHideさん。 画面の中でイキイキと動く愛おしい姿は、今日を生きる小さな勇気をくれる。そこに映る一瞬一瞬の記憶をなぞる時間は、あの子との距離を確かめるための、大切な儀式のようなものなのかもしれない。

日々の暮らしの中にも、彼を感じる「灯」は燈されている。食欲旺盛だったトーラスを想い、メモリアルコーナーに季節の果物をおすそわけ。週末カフェの営業が終わり、ほっと一息つける時間帯にはお香に火をつけ、静かに彼に思いを馳せる。 日中や平日は忙しく働く遠藤さん一家にとって、それはトーラスに寄り添うための、かけがえのない習慣なのだ。 **************************************** 「お二人にとって、トーラスはどんな存在ですか」 その問いに、Hideさんは迷いなくこう答える 「スターでした。僕らの想像を遥かに超えて人気者になった」 Instagramの世界だけでなく、実店舗であるTORUS CAFEでもその人気は絶大だった。海外から彼に会うためだけに来店するお客様、そして、病と闘うトーラスの姿に自らの愛犬を重ね、励まされてきたシニア犬のオーナーたち。 そもそも郊外にマイホームを建てたのも、 TORUS CAFEをはじめたのも、 すべてトーラスがきっかけだった。 その存在は、今も不動に輝く北極星のように、お二人を、そしてたくさんの人々の進む道を明るく照らし続けている。 **************************************** インタビューの中で唯一、最後まで答えを引き出せなかった問いがあった。 「トーラスに『きみの飼い主はどんな人?』と聞いたら、 彼はどう答えると思いますか?」 それまで淀みなく、愛おしそうに思い出を語っていたお二人が、同時に顔を見合わせ、静かに沈黙したのだ。 それは、トーラスとの絆が、安易な言葉に置き換えられないほど深く、唯一無二のものだったからなのかもしれない。「あの子はこう言ってくれるはず...」という期待と、「でも本当にそうだろうか...」という自答。即答できないほどの沈黙は、いかにお二人が真剣に、一対一の個としてトーラスと向き合ってきたかという証のように感じられた。 結局、長い沈黙の後にも、 その問いに明確な言葉が添えられることはなかった。 もしかすると、今後もこの問いへの答えが出ることはないのかもしれない。正解のない問いを抱えながら、あの子の想いを想像し続けていく。そんな禅問答こそが、「AFTER LIFEを共に生きる」ということなのだ。 **************************************** インタビューの終盤、「これからAFTER LIFEを歩むことになる人、あるいはその不安の中にいる人へ伝えたいこと」を伺うと、Ninaさんは優しく、けれど確かな口調でこう答えてくれた。 「今を大事にして、としか言えないです。本当に一日、一日を。 『頑張ろう』っていうとパパとママが大好きなその子は、それに答えようと無理をして頑張りすぎてしまうから。もうずっと頑張ってくれてるから、ただ穏やかにそばにいてあげてほしいんです」 別れの予感に足がすくむとき、私たちはつい「まだ来ぬ未来の悲しみ」を先取りしてしまう。けれど、Ninaさんの言葉から感じ取れたのは、不確かな明日を憂うのではなく、一分一秒の温もりを噛み締めるという、極めて純粋な愛の形だった。 「いつかお別れが来るのは『怖くないよ』とは言えないけれど。先のことばっかり考えて、暗くなって暮らしちゃったらもったいないから。一日一日向き合って、大切にしてあげてほしい」 その言葉は、暗闇の入り口で立ち止まっている誰かの背中を、そっと支えてくれる静かな強さがあった。 考えてみれば、そうだ。病気であれ健康であれ、老犬であれ子犬であれ、人間であれ動物であれ、明日を保証された命などどこにもない。私たちにできることは、今日を全力で楽しみ、愛することだけなのだから。 **************************************** そんなお二人と昨年12月に開催したのが、トーラスとくるみの追悼イベント「IN LOVING MEMORY」――。このイベントをきっかけに、mementoのプロダクトも遠藤家のリビングに並ぶようになった。

正直に言えば、遠藤さん一家にとって『memento』というブランドは、暗闇を導く道標のひとつに過ぎないのかもしれない。後悔なくトーラスとのLIVING LIFEを生ききった彼らは、すでに自分たちの「灯」を燈しているのだから。 けれど、お二人は「このコンセプトを必要としている人はたくさんいると思う」と、mementoの思想に深く共感し、TORUS CAFEの扉を開いてくれた。 イベントの日、トーラスと同世代の「お空組」家族が集まり、あの子たちの思い出話に花を咲かせていた光景。mementoというブランドの存在が、あの子のことを誰かと語り合う「きっかけ」になる。 それは、この家族が築いてきた「トーラスを通じた愛の循環」の、新しい形なのかもしれない。 **************************************** 最後に、 この連載の主題となる問いを投げかける。 What's your memento? AFTER LIFEに、「愛の灯を燈し続けてくれるもの」は何ですか? 「Instagramの中に積み重なる、トーラスの記憶ですね」 トーラスのアカウントには、彼が確かにそこにいた記憶が詰まっていて、旅立った今も変わらず、国内外からたくさんの温かいメッセージが届き続けている。穏やかな表情で弟のジュニパーを見つめる動画に、誰かが涙し、誰かが勇気づけられる。 スマホをスクロールすれば、 今日もそこに彼はいる。 TORUS CAFEに行けば、 そこへ集う人たちの笑顔の中に彼がいる。 長い時間をかけて積み上げてきた、 その膨大な「証」がそこにはある。 今、物理的な肉体がここにあるのか、 そうではないのか。 そこに境界線はないのだ。 **************************************** 【Epilogue】(編集後記) お二人と話をして、改めて「十人十色のAFTER LIFE」があるのだと感じました。 「後悔はない」と言い切る遠藤さんご夫妻の潔さは、決して悲しみがないということではありません。あの子が生きた13年を、一分一秒の余白もなく愛で満たしたという、圧倒的な自負なのだと思います。 シニア期や闘病期には、未来の別れを恐れて足がすくんでしまうこともあるでしょう。けれど、大切なことは日々の積み重ねでしかないのです。 私自身、くるみのフォロワーさんから「素敵な写真や動画がたくさんあっていいですね」と声をかけていただくことがあります。確かに私も、いつか来る日のために意識して彼女の姿を残すようにしていました。 今の時代、スマホがあればすぐに美しい姿を残すことができます。今日、何気なく撮ったあの子の写真が...大切に言葉を添えてInstagramにアップした動画が...いつか訪れるAFTER LIFEにおいて、暗闇を照らすかけがえのない「灯」となって、自分を救ってくれるかもしれません。 一日一日を大切に生きたLIVING LIFEの記憶が、特別な思い出としてあなたのこれからを燈してくれますように。 memento 福地 ■memento Web Site ■memento Instagram
